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東京地方裁判所 平成8年(ワ)12853号 判決 1997年5月29日

原告

藤和不動産株式会社

右代表者代表取締役

藤田公康

右訴訟代理人弁護士

黒田純吉

右訴訟復代理人弁護士

虎頭昭夫

被告

飛栄産業株式会社

右代表者代表取締役

飛嶋奏

右訴訟代理人弁護士

赤松俊武

主文

一  被告は、原告に対し、金二九八七万円及びこれに対する平成八年七月一一日から支払い済みまで年六分の割合による金銭を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金四六六三万九三〇〇円及びこれに対する平成八年七月一一日から支払い済みまで年六分の割合による金銭を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が被告から買い受けた土地に地中障害があったとして、売買契約における特約に基づき、その撤去に要する費用等の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払いを請求している事案である。

二  争いのない事実

1  原告と被告は、いずれも不動産の売買等を業務とする会社である。

2  原告は、平成七年五月一〇日、被告から、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)を代金四億〇八八八万八〇〇〇円で買い受けた。

3  右売買(以下「本件売買」という)の契約書第六条には、「地中障害が発生した場合は、被告の責任と負担で解決する。但し、後記建物基礎の部分については、原告の責任と負担で解決する。」旨の条項がある。後記建物とは、本件土地上にあった木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建の建物(以下「本件建物」という)である。

4  原告は、平成七年六月一日、被告から本件土地の引き渡しを受けた。

三  前提事実

1  原告は、一〇階建てのマンションを建築する目的で、本件土地を購入したが、マンション建設目的での売買であることは、被告も知っていた<証拠略>。

2  原告が、マンション建築のために地下掘削工事を開始したところ、本件土地には三つの建物コンクリート基礎があり、その内の一つは長さ約一二メートル、幅約4.9メートル、深さ約四メートルの地下室用のもので、さらにその下に基礎杭が打ち込まれているものであることが判明した<証拠略>。

四  原告の主張

1  原告が、被告と本件土地の売買交渉を開始したとき、本件土地上には被告が税金対策で建築した本件建物のみが存在した。原告は、被告から、本件建物を建築した際の写真を見せられ、本件建物は以前の建物基礎の上に建築したことの説明は受けたが、以前にどのような建物が存在していたのかについての説明はなかった。原告は、右写真と本件土地の状況から、以前の建物は木造二階又は三階建程度の建物であり、基礎も幅数十センチメートル程度の布基礎であろうと推測した。原告は、マンション用地購入に際しては、地中障害が発生した場合には売主の責任と負担において解決する旨の条項(以下「地中障害条項」という)を入れることにしているが、被告も原告の事情を理解し、本件売買においても同様の条項を定め、但し幅数十センチメートル程度の布基礎であれば、原告の負担としたものである。したがって、布基礎を超える基礎が発見された場合には、その撤去費用は被告の負担となり、実際に本件土地にあった基礎は布基礎を超えるものであった。

2  地中障害により原告が被った損害は、次のとおり合計四六六三万九三〇〇円である。

(一) 地中障害の撤去費用

三五〇〇万円

(二) 原告は、建築予定のマンションについて、平成七年一〇月から一一月にかけて購入者との間で売買契約を締結し、平成八年七月末日引き渡しの予定で、引き渡しと引換えに残代金七億四四〇〇万円の支払いを受けることになっていた。しかし、地中障害があったため、購入者への引き渡しが五か月遅延し、売買残代金の支払いを受けるのも五か月遅延した。右残代金の運用益を短期プライムレートである年1.625パーセントで計算すると、次のように五〇三万七五〇〇円となる。

744,000,000×0.01625×5÷12=5,037,500

(三) 本件売買代金四億〇八八八万八〇〇〇円については、利息年3.875パーセント、返済期日平成八年七月末日の約定で借入れしており、マンション販売の残代金によって返済を行う予定であったが、残代金の支払いを受けるのが五か月遅延したため、次の計算のとおり、五か月分の利息六六〇万一八〇〇円を追加して支払うことになった。

408,888,000×0.03875×5÷12≒6,601,800

五  被告の主張

1  原告は、売買交渉の際、当初は地中障害条項を定めたい旨を希望していたが、被告は、原告に対し、被告がバブル崩壊により所有不動産を順次売却して事業整理をしている会社であり、売買契約の後に地中障害の撒去費用を負担することは不可能であるため、現状有姿の売買でなければできない旨を明確に述べた。原告は、右事情を理解して、地中障害については原告の負担とすることを合意した。

2  ところが、原告は、本件売買契約書の調印の際、地中障害条項が入った契約書を持参してきた。そこで、被告が右条項の削除を要求すると、原告は、社内稟議を通す必要があって右条項を削除することはできないが、地中障害が発生しても被告に一切の負担をさせない旨を表明したので、重要事項説明書においてその旨を明確にし、売買契約書については原告の形式的要求に応じたものである。

六  本件の争点は、本件土地について現実に発生した地中障害について、その撤去費用を被告が負担する約定であったかどうかである。

第三  争点に対する判断

一  本件売買における地中障害条項が定められた経緯について判断する。

1  <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

本件土地の売却は、被告担当者と面識のあったトーマ建設株式会社から株式会社エスディック、東洋建設株式会社を順次通じて原告に持ち込まれ、平成七年四月初めから、原告と被告との売買交渉が行われた。原告の担当者は、東京西支店第一営業部第二課の吉松徹とその上司である関原課長であり、被告の担当者は、開発部長の横溝晧一と脇迫次長であった。当初、原告は、被告から、プレハブ建物である本件建物は地価税対策として建築したことの説明を受け、本件建物を建築した際の工事写真数十枚を見せられた。その写真には本件建物の前にあった建物の基礎表面が写っていたが、被告から以前の建物についての説明は特になく、原告も特に質問しなかった。原告は、本件土地が二〇坪に満たない三筆の土地であることから、二階建て程度の木造家屋しか建っていなかったであろうと考え、以前の建物基礎は特に問題にならないと考えていた。原告と被告との売買交渉も、価格を中心に行われ、平成七年四月一三日までに価格を坪七二〇万円とすることが合意された。

平成七年五月一日、原告と被告との間で、代金支払条件等の細部条件を詰める交渉が行われ、原告から被告に契約書案文が手渡されたが、その案文には地中障害条項が入っていた。その交渉の際には、地中障害条項が特に問題となることはなかったが、後日、被告から、債権者である金融機関が後で被告に負担が発生する可能性があることを嫌がっているから、地中障害条項を除外して欲しい旨の要請があったが、原告は、地中障害条項を入れないと原告の社内決裁が得られないとしてこれに難色を示した。原告と被告で交渉した結果、通常の布基礎であれば、特別に撤去費用がかかることもないとして、原告が負担することになり、「但し、本件建物基礎の部分については、原告の責任と負担で解決する。」旨の但書を入れることで一応合意した。

平成七年五月一〇日、契約書調印の際、被告から、契約書第六条の条項では被告の責任が広くて困る旨の異議が出されたが、原告は、代表取締役の決裁を得て、代表印を押捺した契約書を持参しており、地中障害条項自体を除外することはできないと答えた。そこで、原告と被告で交渉した結果、従来どおり通常の布基礎は原告の負担とすることになったが、その趣旨を明確にするため、重要事項説明書に「当該物件に従前建物の基礎部分が存在します。」との文言を追加した。契約当時、原告と被告の双方とも、今回発見されたような大規模な建物基礎があるとは予想していなかった。

2  証人横溝晧一は、平成七年四月二五日に原告からファックスで送付された契約書の案文には地中障害条項はなく、同年五月一日の交渉の際には原告から契約書案文を受領しておらず、同年五月一〇日の調印の際に原告が持参した契約書で初めて地中障害条項が記載されていた旨証言している。

しかし、甲一号証及び乙四号証によれば、原告が平成七年四月二五日に送付した契約書案文と本件売買契約書を比較すると、単に地中障害条項の有無だけでなく、その他の契約条項の構成もかなり変わっていることが認められ、契約書の条項を十分に詰めないまま、原告がいきなり同年五月一〇日に代表印を押印した契約書原本を持参することは考え難いから、この間に契約書条項をめぐる交渉があったとみるのが自然である。また、本件売買契約書の地中障害条項(第六条)には、但書が記載されており、この内容は被告に有利なものであるが、何らの交渉もないのに原告がこのような但書を記載することも不自然である。さらに、証人横溝晧一も、本件売買契約の調印前に地中障害条項が交渉の対象になったことがあると証言しており、これは地中障害条項が記載された契約書案文があったことを推測させるものである。

したがって、証人横溝晧一の右証言は信用できない。

3  また、証人横溝晧一は、本件売買は現状有姿の売買であって、地中障害については全て原告が撤去費用を負担する約定であったと証言している。

しかし、本件売買契約書の第六条では、地中障害については基本的には被告の責任と費用で解決する旨記載されており、甲二号証によれば、重要事項説明書に付加された特約事項も、「当該物件に従前建物の基礎部分が存在します」と記載されているのみであることが認められ、これらの記載から地中障害が全て原告の負担とみることは困難である。重要事項説明書に付加された特約事項は、契約書の第六条但書では、本件建物の基礎部分だけが原告の負担であり、従前建物の基礎部分については被告の負担と解釈される恐れがあるので、念のために記載されたとみることも可能である。仮に、いかなる地中障害があろうとも、原告の負担としたのであれば、原告としては地中障害の撤去に多額の費用がかかる危険があるから、本件売買契約前に、従前建物の基礎について何らかの調査をしたはずである。当時、従前建物の基礎は、布基礎のようなもので撤去に多額の費用は要しないと原告、被告双方とも想定していたから、その想定を前提とする限りは、地中障害については原告が撤去費用を負担する合意がなされたわけであるが、地中障害がどのような内容であっても、全て原告が撤去費用を負担することまで合意されていたとは認められない。

したがって、証人横溝晧一の右証言も信用できない。

二 右一認定事実によれば、従前建物の基礎については、布基礎程度のものは原告の費用で撤去し、予想外の大規模な基礎があった場合には被告が撤去費用を負担する旨の合意であったといえる。

布基礎程度というのは、正確にはその内容が不明確であるが、本件で実際に発見された地下室を伴う基礎については、それを超えるものであったことは明らかであるといえる。したがって、その撤去費用については、被告が負担すべきである。

三  そこで、被告が原告に対して負う責任の範囲について判断する。

1  甲一号証によれば、予想外の地中障害が発生した場合に、被告が負う責任範囲について、特別の合意はないことが認められる。地中障害は、法的には売買目的物の瑕疵にあたるから、被告の責任は、瑕疵担保責任による損害賠償責任になる。右責任の範囲は、代金額から瑕疵ある目的物の客観的取引価格を控除した残額、すなわち瑕疵があることによる目的物の減価分であると解すべきである。

2  地中障害の撤去に要する費用は、買主負担の場合にはその分が控除されて売買代金が定められるものであり、瑕疵があることによる目的物の減価分であるから、損害として認められる。甲六号証によれば、原告は住友建設株式会社に地中障害の解体撤去工事を発注したが、その費用として二九八七万円を要したことが認められる。

3  原告は、大規模な地中障害があったことにより、マンション建設工事が予定より遅延したことによる損害として、売買残代金の支払いを受けるのが遅れたことによる運用損と借入金利息の追加支払分も請求している。しかし、地中障害の撤去に要する費用を考慮して、売買代金額を決める場合には、マンション建設が遅れることも含まれているから、撤去費用に付加して減価分が発生するわけではない。また、借入金利息の追加支払も、瑕疵があることによる減価とは無関係である。もっとも、売主である被告が予見できたとすれば、特別損害として認められる可能性もあるが、資金の借入やマンション販売時期の決定は、大規模な地中障害の有無を調査してから行うこともできるから、大規模な地中障害が発生したからといって必ず借入金利息を支払う必要があるとは限らず、予見可能ともいえない。

したがって、マンション建設工事が予定より遅延したことによる損害は、地中障害による損害としては認められない。

4  よって、被告が責任を負う範囲は、二九八七万円となる。

四  以上によれば、原告の本件請求は、二九八七万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払いを求める限度において、理由がある。 (裁判官永野圧彦)

別紙<省略>

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